【潮干狩りで】ヒメシラトリ【見つかる貝】

潮干狩りで見つかる貝と銘打ったにもかかわらず初手からどマイナーな本種の紹介です。

 

 

東京湾奥の潮干狩りといえばアサリやホンビノス、シオフキ、マテガイ、最近だとハマグリが復活し、外道でオオキシジミ辺りが定番ですが、ごく稀に違う貝も混ざってきます。

この記事の冒頭で潮干狩りの外道を試食していますが、その中の二枚貝が本種だと思います。当時は二枚貝への興味が薄かったのも相まって科すら分からずじまいでした。

GW明けに筋肉さん&奥さん、m氏と繰り出した潮干狩りの外道で久しぶりに見つけることができました。今では多少知識も増えたので、ニッコウガイ科であることまではすぐに見当がつきました・・・が、その先まではやっぱり分からず。いいんだもん。この場で同定できなくても家に帰れば近海産貝類図鑑が僕を待ってますから。

ヒメシラトリ(右下の白いやつ)

右下の白いやつ

帰宅して貝の仕分け&調理をしつつ、すきあらば観察。殻皮が非常に目立つ貝です。なかなか軟体を出してくれませんでしたが、辛抱強く待っていると環境の変化に慣れたのか・・・他の貝に遅れること丸1日。徐々に水管らしきものが見え隠れし始めました。

アサリなどと比べると水管が非常に細い。これは2本とも出ているのか?細くて観察しづらく、この時点では水管が2本とも出ているのだと勘違いしていました。

 

youtube.com

さらに翌朝見てみると2本目の水管が。どうやらアサリなどとは異なり、完全に分離した状態で水管が顔を出すようです。

水管を伸ばすヒメシラトリ

にょい〜ん

かなり長い水管です。こんなの見たことがありません。ちなみに水管が長い二枚貝というのは別にそこまで特異というわけではなく、ウミタケだったりムラサキガイだったりいくつかいます。ただ、生きている状態で遭遇したのは初めてです。

ヒメシラトリの肉抜き

加熱すると流石に多少縮む

いつまでも生かしておくのは無理なので、この後加熱して肉抜き。本体と同等近い長さです。濡れている時以外は非常に分かりづらかったですが、殻頂付近がわずかに赤く彩色されています。殻の外側よりも内側の方が分かりやすいです。当初はこのように濡れていないと彩色が分かりづらかった(多分たまたまそうだっただけ)せいで見落としていた特徴でしたが、同定の重要なポイントでした。

ヒメシラトリ(左殻)
ヒメシラトリ(右殻)
ヒメシラトリ(殻頂)
ヒメシラトリ(内部)

軟体部を取り去り臭いも消えたので、水に漬けて靭帯を軟化させ殻を閉じて乾かし、標本の完成。別にそんな希少種とかいうわけでもないでしょうが、潮干狩りでは稀にしか混ざらないため、殻を閉じるときは分離してしまわないかハラハラでした。

ヒメシラトリ(後部)

完全には閉じない

横から見ると、後部の水管が出る位置に隙間が存在し、殻が完全に閉じることは無いようです。全体に歪んだ、というか前後に捻れた形状をしています。

近海産図鑑のニッコウガイ科をあたっていくとシラトリガイ、ヒメシラトリ、シラトリモドキ、サビシラトリあたりに候補が絞られましたが、そこでお手上げ。ヒメシラトリ以外は殻表面がもっと無骨というか輪肋が荒っぽいような印象は受けたといったところでしょうか。

ビーチコサークルでお世話になっているD!CE→さん他数名と通話しながら検討したところ、殻頂付近が彩色されているように見える点と全体的な雰囲気からヒメシラトリではないかとの見解に。僕は乾いてしまった本種の殻頂の彩色が確認できずうーーーんとなっていましたが、殻を閉じるにあたり水に漬けたところ彩色がより明瞭になり、一応納得することができました。

良い機会なのでニッコウガイ科のうち個人的に似ていると思ったものを近海産図鑑からピックアップし、特徴の一覧表を作成してみました。流石に表がでかくて見づらいと思います・・・すみません。スクロール可です。

 

種名 ケショウシラトリ サビシラトリ セイタカシラトリ ソトオリシラトリ ニッポンシラトリ フネシラトリ ゴイサギ タカホコシラトリ バライロシラトリ ヒメシラトリ サギガイ エゾサギガイ アワジチガイ シラトリモドキ マルシラトリモドキ アオサギガイ アマサギガイ シラトリガイ
分布 四国以北。アリューシャン列島、
ベーリング海、アラスカ南部、
ブリティッシュ・コロンビア
北海道南西部から九州、
中国大陸沿岸
北海道〜ベーリング海 環北極圏分布をし、
北海道から東北地方
北海道南部〜九州 北海道からベーリング海
・アラスカ
北海道南西部から九州 下北半島、
尾駮沼・鷹架沼
北海道からアラスカ、
北米西岸
九州から北海道、
サハリン、アラスカ、
カナダ
サハリンから九州、
台湾、中国大陸
北海道北部、国後島、
サハリン、沿海州
房総半島から九州、
中国大陸沿岸
北海道南西部から九州、
中国大陸沿岸
東北地方の
日本海側
房総半島、能登半島以南、
東南アジア
奄美大島以南  
水深[m] 2〜30 潮間帯   潮下帯から陸棚上 20〜100   10〜50     潮間帯から水深50m 10〜30   潮間帯下部から水深50m 潮間帯   10〜50    
底質 砂泥底 内湾の泥底     砂泥底   砂泥底     泥底 砂泥底   砂泥底 小石混じりの砂泥底   泥底    
SL[mm] 49 48     27   52     28 52   40 58   40 3.5  
シルエット 卵形 卵形     横長の卵形、後端に向かって
細まり、弱く右に反る。
  卵形   タカホコシラトリより縦長 卵形 卵形 サギガイより細長い 長楕円形 卵形   長楕円形    
套線湾入(右殻) 殻長の半分程度 殻長の半分程度     極めて深く、
前閉殻筋痕に近づく
  深い       深く、左右の殻で同形   深く、左右の殻で同形 深く、左右の殻で同形   やや大きく、
立ち上がる
   
套線湾入(左殻) 前閉殻筋痕のすぐ後ろに達する 殻長の半分程度     -   右殻より深い     右殻より深く、
前閉殻筋痕に達する
深く、左右の殻で同形   深く、左右の殻で同形 深く、左右の殻で同形   やや大きく、
立ち上がる
  前閉殻筋痕に達する
靭帯 両殻間に埋もれ、大きい 両殻間に埋もれ、大きい - - - - - - - - - - - - - - -  
膨らみ 弱い 弱い     弱い   弱い     - 弱い   - 弱い   弱い   少し膨れる
          白色か少し赤い   殻頂部は赤みを帯び、
その他は白色
             
厚さ                           厚質   薄質    
表面構造         殻頂から後腹隅に向かって
弱い放射陵が走る
  平滑       平滑   規則的な成長線のほか
細かい放射条線がある
        そんなに粗くない
光沢             あり       あり              
後背縁の形状             直線的       緩やかに張り出し、
左へねじれる
    直線的   短く、直線的    
後端の形状         鈍角   細く、裁断状で、
右へねじれる
    細く、裁断状で、
右へねじれる
  やや右に曲がる 尖る 尖る        
殻頂         小さく、後寄り             サギガイより中央寄り 後方へ寄る          
小月面                           小さく、深くくぼむ        
前後端の開き具合             ごくわずかに開く       わずかに開く 後端はわずかに開く            
その他 北の方では潮間帯にいるが、
串本ではトロールで得る程度に
深いところにいる
殻の質が悪い様な
感じを受ける殻
                           

 

ヒメシラトリ内面(套線湾入を強調)
套線湾入が見やすいように強調してみました
赤線が套線湾入、黄色が前閉殻筋痕
赤線が套線湾入、黄色が前閉殻筋痕

一覧表で分布、形状、光沢の有無である程度絞った上で套線湾入をチェック。右殻(下側)では後端から半分ちょいの深さですが、左殻(上側)では前閉殻筋痕に達していることから、ケショウシラトリ、ヒメシラトリ、シラトリガイの3種類に絞られます。

表面の粗さなんかも違うとはいえ正直近海産図鑑の情報だけではこれ以上絞りきれないので、お馴染みkudamakiさんのブログをチェック。D!CE→のご指摘にもありましたが、ヒメシラトリの殻頂は赤みを帯びます。大変でしたが、やっとたどり着くことができました^^

ヒメシラトリで検索してみると、どうもこの貝は長い水管をただ泥の上に出すのではなく、表面を這わせて掃除機のように泥表面の有機物を摂食しているらしいことが分かりました。なるほど、この長い水管はそうやって使われているのか・・・。水管が長い貝というのはより深く泥の中に潜れるという話を聞いて興味を持っていたところでしたが、この貝の場合は別に深く潜っているというわけではなさそうですね。摂食方法的にも深く潜るのは不利にしかならなさそうです。こういうパターンもあるのか・・・。

 

wikipediaによると、

サクラガイなどニッコウガイ上科に属する二枚貝には、入水管を掃除機のように使って砂泥底に沈降・堆積したデトリタスを直接吸い込むものが多い。

とのことです。

なお、御多分に洩れず試食もしましたが、以前と同様砂だらけで特段味が良いわけでもなし。出汁はもしかしたら出るかもしれませんが、そもそも数採れないので、食用としての利用価値は無しですね^^;

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