アジロダカラ

とても魅力的な楔模様を持つタカラガイ。この模様が好きで手元にサンプルが多数集まったので、豊富に情報が得られました。せっかくなのでまとめておきたいと思います。

 

 

和名: アジロダカラ(網代宝)
学名: Cypraea ziczac (Linnaeus, 1758)
分布: 日本(房総半島以南)〜インド・太平洋
生息環境: 潮間帯〜水深20mの岩礁、サンゴ礁(転石の下や、窪みの中)
サイズ: 8.3〜29.0mm(世界記録)、8.7〜21.7mm(日本記録)
<<タカラガイ・ブックより>>

当ブログオリジナル項目
食味: 不明 

タカラガイの生体がいくつか手に入ったら必ず試すようにしています。美味しいので。

 

僕の手持ちの記録です。最大21.2mm、最小11.3mm。だいたい10〜20mmに収まる小型のタカラガイです。

橙色の地に白色の楔模様が3本。「網代」とは漁具のことだそうで、これに見立てたとのこと。また、学名のziczacは「ジグザグ」の語源だそうです。

拾いやすさは産地によってかなり異なります。本種も沖縄や南紀に行けばザクザクあるというものではなく、例えば沖縄で拾ったのは今までで数個程度。三浦半島も少なめ。なぜか館山では比較的多く拾える。三浦は概して遠浅、沖縄もサンゴ礁の内側は比較的浅いのに対し、館山では場所によって深場に面しているというのも一因かもしれません。やや深場のタカラガイですしね。

ただこれは拾う方法によるところも大きい。僕は大物狙いを意図した表面のみの大雑把な掃貝をしていた頃はほとんど拾えませんでした。

最近はジュズダマダカラといった小型種を探すために貝溜まりをちまちまと探すような掃貝方法なのですが、方法を変えた途端にザクザク拾えるようになりました。それこそ1日に3個以上とか。
特定の種類のタカラガイが拾えない方は、拾い方を変えてみましょう。特に2cmを下回るサイズのタカラガイは歩きながらでは厳しいです。どうあがいても見落としてしまいます。まずはしゃがんでゆっくり貝溜まりを眺める方法。理想はそれに加え貝溜まりを掘りながら。
ただ、上で書いたのはあくまでも”拾うだけ”なら。カミスジダカラ属のタカラガイは模様のある層が薄いといわれ、打ち上げでは模様が摩耗によりすぐに消えてしまいます。

ところで、一口に摩耗とはいうものの、アジロダカラって結構色味のバリエーションが豊富だと思いませんか?もちろん真っ白に擦れたものは相当ボロですが、

 

このように、楔模様のすぐ下の層は紫がかった褐色のものと橙色がかったものの2通りを拾っています。もちろん種類が異なるというわけではありませんが、個体差でしょうか?
最初は単純に摩耗の過程(紫→橙)と思っていましたが、まだ楔模様が消えきっていない個体でもそれぞれの色味の個体があり、混乱してしまいました。

ということで、このブログでタカラガイの紹介をするときは、多数の色層が重なってできているタカラガイの、特に摩耗の過程を多めでいきたいと思います。分かりやすい、もっと図鑑likeな紹介は他の方がしてくれてますし。僕んとこではちょっと毛色を変えていきます。

あと、殻の巻き数や、歯のでき方なども。前者については、何回巻いたら体層(巻のうち最も大きく膨らんだ部分)や殻口が形成され始めるのか?後者については、内外唇歯のどちらが先にできるか?どこから歯が出来ていくか?

どちらも丁度いいサンプル(断面がよく見えるものや若い個体)がないと調査できないので、載せられるものは限られてきますが・・・。正直そんな情報なくても他に分かりやすい特徴はもっとあります。ただ、例えば幼貝や亜成貝の微妙なのでは有力な着眼点になり得ると考えます。オミナエシダカラやコモンダカラの若い個体なんか、これ無しだと沼ですよ。

アジロダカラについてはまだ調査中ですが、追々記載できればと思います。

 

それでは整理。紫、橙のどちらが先なのかよくわかっていませんでしたが、摩耗の過渡期にあたる個体を2つ見つけました。まずはこちら。

 

白地に橙色の斑点。よく見る擦れたアジロダカラですが、この橙色の斑点があるのは決まって橙色〜白色に擦れた個体です。橙色と白色の中間的な個体はよく見かけること、また白色は摩耗過程の最後にあたるので、当然摩耗の順序は橙色→白色となります。

続いて、こちら。

 

ぱっと見は白っぽいのかと思ってましたが、よく見るとうっすら紫系です。そして部分的に橙色。この個体の存在、かつ白と紫が同居している個体が見当たらないことから、摩耗の過程は

楔模様の層→紫色の層→橙色の層→下地の白色(橙色の斑点)

であることがわかります。ただ例外もいて

 

この個体は楔模様の層と橙色〜下地の白色が同居していて、一見紫色の層をすっ飛ばしているように見えます。しかし、殻口側を見ると内唇歯が未発達で滑層も乗り切っていません。従って、紫色の層は幼貝や亜成貝には存在せず、成熟した個体のみの特徴なのではないかと思われます。

以上を踏まえて、摩耗の過程を順に記載します。

 

まずは光沢が失われ・・・と、まだ完全に光沢の残った綺麗なものは拾えていません。
写真の個体はこれまで拾った中でも特級の美品。

 

楔模様が擦れ始めて、下地の紫色が主張し始めます。模様が立派に残っているけどなんか青みが強い・・・って個体は、擦れてるということですね〜。

 

楔模様が消えていきます。まだうっすら模様が残っていますね。下地の紫色が出てきます。

 

紫色の層もはげてきて、橙色の層が顔を出します。

 

橙色の層も擦れてくるとだんだん白っぽくなっていき、橙色の斑点が目立つようになります。さらに摩耗が進むと、背面は全体に白っぽくなってきます。カバホシダカラは摩耗してもあまり白くなりません。

 

この段階くらいまでは前後端付近の点列は残っていることが多いです。
点列が消えてしまうと、同じく腹面が橙色で斑点を散らすカバホシダカラと迷います。見分け方は後述します。 

 

腹面の斑点は、背面が真っ白になったり大破するなどかなり古くなっても残っていることがほとんどです。また、腹面の橙色はどんなに色あせても黄色っぽく残ることが多いです。

続いて、成長過程を示します。

 

幼貝でも楔模様です。まだ持ってません。写真の個体は破損して内部が見えるもの。微かに楔模様が確認できます。

 

内外唇歯が形成され始める頃には、腹面に滑層が乗ってきて斑点が出てきます。やや若い成貝では、腹面の滑層が未発達で楔模様が出ていることがあります。

 

腹面の滑層が乗り切り、内外唇歯も完成して成貝です。背面の橙色は、北方の個体ほど濃くなる傾向があります。なお、腹面の橙色は沖縄の個体の方がより強い傾向があるように感ぜられます。右が沖縄産、左が館山産です。

 

老成しても側面はあまり肥厚せず段差もわずかですが、このように滑層が少しだけ白いフレームのようにせり上がってくるようです。 

 

フリークの一例です。あまりフリークは見かけませんが、まあ僕そういうの見つけるの苦手マンだし・・・。

完品の特徴、摩耗個体の特徴をまとめると、同定のキーポイントは以下の5点に絞られます。
1. 背面の模様
2. 前後端付近の点列
3. 腹面の色
4. 腹面の斑点
5. 殻口の歯列 

背面の楔模様が残っていれば一発。擦れて模様がなくなっていても、腹面が橙色になるのは国内ではアジロダカラ、カバホシダカラ、カモンダカラのみです。カモンダカラは腹面に斑点が出ないので、腹面が橙色で斑点がある場合はアジロダカラ、カバホシダカラに絞られます。

模様がないとこの2種の見分けが厳しいですが、上述の通り、背面前後端に点列があればアジロダカラです。これも消えてしまっている場合、殻口の歯列に注目します。

 

左がアジロダカラ、右がカバホシダカラです。歯列を比較すると、カバホシダカラの歯は畝の高くなった部分が白っぽく抜けているため区別できます。

また、アジロダカラの摩耗個体の方が背面の色調が明るい傾向にあることで見分けます。傾向なので摩耗の状態や個体差にもよってきますが、いくつか拾うとなんとなく分かるようになります。

上ではなんとなく分かるようになると書きましたが、どうせなら決め手を持っておきたいものです。この記事のアジロダカラなら、先に挙げた5点。摩耗しても残る絶対的な着眼点は3〜5ですね。貝殻の同定なら間違えても死にゃしませんが、キノコや野草だと普通に死にますからね。なるべくある種類に固有の特徴を頭に入れ、「この特徴があるのはこの種類だけである」または「この特徴があるからこの種類はありえない」と0/1判定ができるように心がけましょう。あやふやな、個人の主観に頼らざるを得ない部分での同定を減らす。そうすれば、自ずと間違いは減っていきます。

なんでこんなこと書いてるのかというとですね、特にキノコの人が(キノコの記事を)想像以上に多く見に来てくれているようなので・・・。(貝の記事まで見てるかはわかりませんが、見てるなら読んでください)間違えたら死にます。同定にあたり決定打を持つようにしましょう。上から下まで眺め回して、絶対的な特徴を見逃さないようにしましょう。

そのうち、キタマゴタケと、おそらくはタマゴタケモドキを間違えかけたことを書きます。自信を持って排除できたからこそ、今こうして駄文を書くことができています。

若干逸れてしまいましたが、アジロダカラの紹介でした〜

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